第52回プリマーテス研究会要旨ボルネオ・サラワク州ランビルの森に棲む昆虫類の多様性 市岡孝朗(京都大学大学院人間・環境学研究科) ボルネオ島のマレーシア国サラワク州の低地に位置するランビル・ヒルズ国立公園には、陸上生態系のなかでもっとも高い多様性を示す生物群集を擁すると考えられている熱帯低地林が広がっている。わずか70km2ほどの面積に2000種超の種子植物が生息し、地上30ー60mの高さには熱帯の強い日差しを遮る林冠が発達している。この森に生息する昆虫類の多様性もひときわ高く、400種を超えるアリ類、350種を超えるチョウ類、300種を超えるハムシ類、200種を超えるカミキリムシ類などがこれまでに記録されている。この他に、名前のついていない種類が数多く含まれ、まだ何種類生息しているのかさえわからない分類群の昆虫標本も膨大に得られている。講演では、ランビルの森の昆虫類が示す圧倒的な多様性を紹介するとともに、演者がこれまでに現地で研究を続けてきた、アリ類や蝶類、ハチ類の生態について解説する。 プログラムに戻る 縞のあるシマヘビと縞のないシマヘビ−島嶼環境におけるトカゲ(被食者)とヘビ(捕食者)の共進化動態― 長谷川雅美(東邦大学理学部) シマヘビは日本固有で麦わら色の地色に茶褐色のストライプが特徴的なヘビですが、その色彩パタンにはいろいろな変異があります。 私は伊豆諸島の島々で1982年にシマヘビの野外調査を始めました。調査を始めてすぐ、色彩パタンや体の大きさが島毎に異なることに気付き、以来その意味を明らかにしようと、調査を続けています。その結果、予想もしなかったことに、シマヘビの色彩パタンが同じ島内で年変動することがわかったのです。さまざまな仮説を検討した結果、トカゲとヘビの共進化に注目するようになりました。そして、シマヘビの色彩多型はトカゲが示す視覚的な捕食回避行動によって維持されている、というアイデアを得たのです。研究会では、このアイデアを実証するいくつかの証拠を示しながら、捕食者と被食者の相互作用が捕食者の多様性を促進する1つの事例として紹介したいと思います。 プログラムに戻る 中南米霊長類(広鼻猿類)に見られる様々なレベルの多様性 小林秀司(岡山理科大学総合情報学部) クロアタマウアカリ Cacajao melanocephalusと言う猿をご存じだろうか? 本種は、ブラジルのネグロ河流域に住む中型の猿で、古くから存在が知られているにもかかわらず、ほとんどまったく研究されていない、未知の猿と言っても良いだろう。この猿の形態がまた変わっていて、ウアカリのくせに禿げていないだけでなく、太くて長い犬歯が外に向かって突き出し、切歯列も上下が四本ずつそろって長く前方に突き出しているのである。こうした特徴は、本種の特異な生態、浸水林地帯に限って生息しサガリバナ科の未熟果を常食しているという事と対応しているが、実は、こうした特異な分類群を生じたこと自体、南米に生息する霊長類の多様性を象徴していると考えられる。 今回、演者は、中南米に生息する霊長類の様々な多様性について焦点を当て、属以上のレベルと属以下のレベルに大別して、広鼻猿類の多様性の実情について解説したい。 プログラムに戻る 地域社会と連携した環境教育のシステムの構築 吉田正義(愛知県立豊橋東高等学校) 平成14年、創立100周年を機に学校全体として21世紀の地球環境を守る活動を実施することとなり、表浜海岸アカウミガメ保護啓発活動を実施した。アカウミガメを取り巻く自然環境の状況を研究者や関係者から情報収集をはかるとともに、産卵調査、小ガメの放流、ビーチクリーニングなどの活動を通して、市内の海岸が貴重な産卵場所であることを学校内外に広くアピールする活動となった。その結果、自然環境の調和や保全に対する生徒の意識や関心を高める一歩となるとともに、企画、立案に際し、地元の小・中学校、水族館、ボランティア団体、地元の協力を得るなど活動の輪も広がり、連携しながら活動を行った。さらに、平成17年には「愛・地球博」愛知県館で展示・発表する機会を得、活動の様子や成果を広く情報発信した。わずか6年のささやかな活動ではあるが、アカウミガメを一つのキーワードとした地域社会と連携した環境教育のシステムが構築できたので報告する。 プログラムに戻る 現代文明の崩壊 槌田敦(高千穂大学) 人類は物品を交換(経済行為)する霊長目 需要と供給の関係による最適供給 神の見えざる手の成立、そして余剰と外部経済による成長 しかし、外部不経済による過剰供給と経済膨張 これが諸悪の根源、経済成長と勘違いする現代経済学 群れを作る人類は、御用学者の笛に踊らされている 富裕層に奉仕して利益を誘導し、その見返りを得る科学者、経済学者 (1)原子力推進のためのCO2温暖仮説のウソ 因果関係が逆(温暖化でCO2増)、炭鉱破壊へ (2)エネルギー開発(欲望で目がくらみ永久機関の愚) 虚構による過剰供給で経済は膨張へ (3)規制緩和(神の見えざる手の破壊) 大多数の庶民を需給関係から排除して、貧困層の拡大、紛争の常態化 (4)原子力・国債(未来から収奪する魔法) 放射能を子孫に負担させての繁栄 なんと60年後に利息込みで莫大な償還! 現代文明の最大の問題は貧困化と砂漠化 なんら対策案を持たない現代経済学と自然科学 この原因は科学技術と貿易、これによる過剰生産と過剰供給 社会の内では、労働を不要にして貧困化 社会の外では、農地を不要にして砂漠化 解決の方法はある。それは外部不経済を原因に内部化すること 科学技術税の新設と関税の強化により、 過剰生産・過剰供給を制限して、雇用を拡大し、農地を保全する しかし、利益を失う富裕層と御用学者はそれを妨害するであろう 間もなく近づく寒冷化 餓死する貧困層、紛争の激化、富裕層への焼き打ち、略奪 絶望か、御用学者に踊らされた霊長目人類 プログラムに戻る 地域に住む希少な生き物のシェルターとしての動物園 加藤章(財団法人日本モンキーセンター) 古来、動物園は珍獣奇獣を集め、衆人に見せては木戸銭を得る見世物小屋か、王侯貴族の道楽にすぎなかった。時を経て現代、動物園は社会的貢献施設として世界中の希少な生き物を飼育展示し、保護に必要な研究に力を注ぎ、地域の目立たない希少な生き物の保全にも目を向けるようになった。 地域に住む希少な生き物は、母数が小さいにも関わらず、生息環境の破壊と喪失、乱獲、無関心などにより、脅威の最前線に立たされ、さらに減少の一途を辿っている。 そこで日本モンキーセンターでは「広大な占有できる敷地」「コントロールされた環境」「閉鎖された安全」「専従のスタッフ」「教育する環境」を備え、これらの脅威にさらされた『目立たない希少な生き物』たちのシェルターとなるべく、犬山市の希少生物の保護活動に参画してきた。本公演では、地域の生態系保全との関わりを深めていく今後の動物園のあり方を紹介したい。 プログラムに戻る 野生大型類人猿の保護を目的とした健康モニタリングの取り組み 藤田志歩(山口大学農学部) 大型類人猿は熱帯生態系のキーストーン種とされるが、近年、森林伐採、狩猟、戦争に加えて、感染症の流行が絶滅への驚異となっている。その原因は、大型類人猿の生息地やその周辺における人間活動によってヒトの病原体が大型類人猿集団に持ち込まれ、また、生息地環境の劣化によって大型類人猿の病原体に対する抵抗力が低下することによると考えられる。さらに、大型類人猿は系統的にヒトに近いため、大型類人猿とヒトとの間で病原体の相互感染が容易におこり、観光客や調査者などとの接触が大型類人猿集団での感染症の流行につながる可能性がある。したがって、大型類人猿の保護を考える上で、感染症対策はもはや緊急の課題である。そこで我々は、野生大型類人猿の健康状態を日常的にモニタリングし、また、エコツーリズムなどの人間活動が大型類人猿に与えるストレスを定量的に評価する取り組みを始めた。本公演では、これまでに得られた成果と今後の展望について紹介する。 プログラムに戻る 大型類人猿の遺伝的多様性 村山美穂(岐阜大学応用生物科学部) ゲノム解読によって種の遺伝情報の全容が明らかになり、塩基配列の比較から進化の変遷をうかがい知ることが可能になった。例えばヒトとチンパンジー間で配列を比較すると、約1.2%が相違している。一方、同一種内でも、個体間で相違している部分があり、ヒトの場合、約0.1%、300万塩基対に差違が認められる。しかしながら、種内の遺伝的多様性に関する情報は、大型類人猿を含め他の種では、いまだ十分に蓄積されていない。種内多様性領域は、亜種の識別、地域変異や群間の交流状況、血縁判定や性判別等に有用なマーカーとなり、得られた情報は、大型類人猿の場合、生息環境の保護、社会構造の解明、飼育個体の血統管理等に活用できる。また近年、遺伝情報と脳機能との関連が明らかになりつつあり、遺伝情報の差違によって行動の種差や個体差が生じる可能性が示唆されている。我々は、神経伝達に関与する遺伝子の多様性を霊長類各種で解析しており、これまでに得られた成果を紹介したい。 プログラムに戻る 深海の生物多様性と深海生物 三輪哲也(独立行政法人海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター) 深海の調査が始まった、いまから約30年前までは、深海に生物はほとんどいないだ ろうと、多くの人が信じていました。しかし、ガラパゴス諸島での海底調査で見つか った海底火山をきっかけに、深海には多種多様の生物、それは微生物をはじめとし て、大型の多細胞生物までもが活発に生活していることが分かってきました。深海の 極限環境にはさまざまな生物が適応しています。特に目を引くのが太陽光(光合成) に依存しない生き物たち、化学合成系生物でしょう。また、高い水圧環境下における 生き物たちもいます。深海の環境と深海の生物の関係、特に生物がどのように深海環 境に対応し、応答するのかを理解することが重要です。 私たちは幾つかの装置開発 を行いました。 深海の生物(たとえば深海魚など)の捕獲装置、高圧閉鎖環境下の 生物飼育システム、および高圧力環境下で用いる組織細胞観察のための光学顕微鏡シ ステムです。今回は深海に生息する生物たちとその周辺環境を紹介し、捕獲する方法 を解説します。また、深海生物の長期飼育に向けての、新江ノ島水族館との共同飼育 をご紹介します。 プログラムに戻る 実習 植物の種子散布における動物たちの役割 阿部晴恵(財団法人日本モンキーセンター) 固着性の植物にとって、種子散布は、他の集団や新たな生息地に子孫を送る重要な繁殖過程の一つです。種子の移動は、水や風、動物などの媒介者に依存し、媒介者による散布に適した形態に進化してきました。例えば、動物に種子が運ばれる植物の多くは、エサ資源となる果肉を発達させることで動物を引き寄せています。このため、動物による種子散布は、植物群と散布動物群の共進化として興味深いだけでなく、動物が生態系へ果たす重要な役割のひとつとして注目されています。なかでも霊長類は、体が大きく多様なサイズの果実を食べ、多量の種子をフンや吐き出しにより破壊することなく散布できます。つまり、霊長類は植物にとって捕食者であるだけでなく、種子散布を通して森林の創生や維持に大きな影響を与えると考えられています。本実習では、様々な種子散布様式をもつ植物の観察を通して、種子散布を通じた生き物同士のつながりについて考えてみたいと思います。 プログラムに戻る |