元アフリカ館担当:辻内
明日は慰霊祭です。
毎年、創立記念日の10月17日に、
モンキーセンターで亡くなった動物たちに今一度想いを馳せ冥福を祈る、動物慰霊祭がおこなわれます。
飼育員にとって、改めて自分の仕事、自分自身と向き合う機会となります。
今年の3月13日、ギニアヒヒのギネが天国へ旅立ちました。
国内最後のギニアヒヒでした。
私はギネを4年間担当しました。
ギネは最後の半年間を寝たきりで過ごしました。
彼の自由を奪ってしまったという懺悔を込めて。また、いちばん近くにいさせてもらった感謝と敬慕を込めて、
彼と過ごした日々を皆さまにお伝えさせていただきます。
ギネと出逢ったのは6年前でした。
その時にはすでに園内では最後のギニアヒヒとなり、ひとりぼっちでくらしていました。
そして、何か心を揺さぶることがあると、自分を噛んで、傷つける。自傷癖があり、
あまり見つめないように。と教えられた日があなたと出逢った日でした。
内側から湧き上がる、イライラのようなものをぶつける先が自分。グルグル回ったり、壁を蹴ったり、暴れまわった後に自分を噛む。
自傷には大小ありましたが、自傷すると落ち着くギネ。でも噛んだ後はいつも、とてもとても悲しい顔をしていました。
自分を自分で傷つける。そんな個体と出逢ったのは初めてで、当時はどう接して良いのか、正直戸惑い、不安な気持ちを悟られまいと、こちらも距離を伺っていました。
あの頃のギネは自傷を少しでも減らすようにと、1日のほとんどの時間を室内で過ごしていました。
だから夕方、誰もいなくなった運動場で過ごすギネ。の前で話しかけながら過ごす時間、が、ふたりの時間となりました。
セルフグルーミング中。
落ち着いている時のギネは、優しい眼差しで私をみてくれました。
自傷の原因ははっきりとはわかりませんでしたが、苦手なものが多い彼にとっては、毎日が戦いだったと思います。
そんなギネさん。
大きな身体に似合わず、細かい作業に夢中になるところがありました。
おがこの中の小麦探しとか。
なので、犬用のコングを、中身を取り出すのに夢中になるかな、と思って渡すと、
なんと自傷軽減に大活躍。
噛みごこちなのか、気に入ってくれて、噛みたい衝動にかられると、腕を噛む代わりにコングを噛むようになりました。
湧き上がる衝動に駆られた時に、コングを咥え落ち着いたギネの姿に、
噛まずに済む方法を一緒に探そうと強く思いました。
コングにもお気に入りがあり、
このオレンジのコングが相棒となりました。初代イチロウと。
外へ出て行くときも持ち歩き、
噛んでぼろぼろになると、ジロウ、サブロウと相方も新しくなりました。
コング然り、こだわりがおありのギネさん。
食べ方にもこだわりがあり、
ペレットは水にふやかしてから食べるのがお気に入り。
お正月のお年玉と。
アフリカ館で開催したサルおせち。アフリカ館メンバーとともに外へ出て、
袴姿の太基から卵焼きを受け取り、来園者の前で落ち着いて食べてくれた姿に感動しました。
落ち葉をがさがさ。
掃除をしている私の姿を小窓からのぞいている姿がいつも愛らしかった。
阪倉さんがお絵かきなんていかが?と画用紙とクレヨンを持ってきてくれました。
クレヨンをちょっといじるだけだったけど、初めての経験ができました。
ガラスでブタ鼻。
こんなお茶目な一面も。
甲子猿では、『かわいい』枠で出場も、マンドリルのイラーリに負けてしまいましたね、、
ほとんどの時間を室内で過ごしていたギネ。
環境を変えようと、部屋の引越しをした日、運動場へ出て初めて目にしたお向かいの
若い太陽の塔を、ギネはキラキラした眼差しでいつまでも見つめていました。あの時、ギネの心を感じられた、あの瞬間、忘れません。
引っ越し後は周りのアフリカ館メンバーたちと同じように日中も外に出る生活を送っていました。
お外でリラックス。
ぽっこりお腹がチャームポイント。
自傷がゼロになることはありませんでしたが、薬に頼ることなく、引きこもることなく、過ごしていました。
しかし、
治療のために上部シュート(運動場と寝室を繋ぐ通路)に入ってもらっていた時、暴れてしまったようで、脊椎を損傷してしまい、寝たきりとなってしまいました。
シュートに入ってもらうのは初めてではありませんでしたが、繊細なギネへの配慮が足りなかったことを痛感しました。悔やんでも悔やみきれない自責の念でいっぱいです。
復帰を願って病院でのリハビリ生活となりました。
寝たきりの生活。とても辛かったと思います。
寝返りを打たせたり、身体を拭いたり、マッサージやストレッチをする日々。
石田くん、鏡味さんにつくってもらったリクライニングできるベッドで体を起こし、リハビリや食事をしてもらいました。
日々痩せ細っていくギネの身体をさすりながら、初めて本気で仕事を辞めたい、辞めるべきかと思ってしまっていました。
日々の作業との狭間で、自分がギネにできることは最大限にできているのか、何をすべきなのか、ギネの前から逃げ出したくもなりました。
体調も安定しない時が続き、
カキしか食べなかったり、キュウリしか食べなかったり、日によって食べる量も食べ物も食べ方もころころ変わるギネの気持ちを読み取ろうと、必死の毎日でした。
落ち着いている時は以前と変わらず、
優しい眼差しで私からご飯を受け取り、
自力で動かせる左手で食べながら、うまーいと喉を唸らせるあなたに、いつもこちらが生きる気力をもらっていました。
ギネさん。あなたのことを想うと心がぎゅーーっとなります。
3月13日、
ギネの心臓がゆっくりと止まっていく瞬間、
病院スタッフみなさんのはからいで、
最後の、ふたりだけの時間を過ごしました。
もう意識も朦朧としているギネの痩せ細った身体を抱きしめて、お別れをしました。
もっといろんな事を経験してもらいたかった。
仲間をつくってあげたかった。
誰かとくらすことを、経験してもらいたかった。
また歩けるようになってもらいたかった。
かなえてあげられなかったことばかりで、本当にごめんなさい。
最後の最後まで生きることを頑張ってくれて、ありがとうございました。
私たち飼育員にとって、
動物たちは、家族と言うのはおこがましいですが(言葉の使い方合ってますでしょうか。)とてもとても大切な存在です。
たまに長い休みをもらうと、逢いたくてしょうがなくなります。
命あるものは必ず終わりが来ます。
命尽きるまで、どのように生きてもらうか。見に来てくれた方に、どんな姿を見てもらい、感じてもらうか。
彼らが命をもって伝えてくれること。をちゃんと皆さんにお伝えできるように、彼らに寄り添い尽力して参ります。
明日は第63回動物慰霊祭です。
毎年、全国からお供えものが届きます。感謝の気持ちでいっぱいです。
23年と11ヶ月の生涯を懸命に生き抜いてくれたギニアヒヒのギネに、そしてモンキーセンターの動物たちに想いを馳せていただけたら嬉しいです。
ギネちゃん、またあなたに逢いたくなってしまいました。昔の仲間には会えましたか?心穏やかに。そして心赴くまま、どこまでも自由に。あなたと過ごした日々をずっと忘れません。