おさる獣医師の動物園歳時記
   
いつもは裏方でサルの診療にあたっている「おさるの獣医師」が
緑豊かな動物園の自然と動物について
感じるままにシャッターをきり 書きとった「動物園歳時記」です


 
 GWが終わり平静な動物園に戻りつつありますが、ワンと鳴くサル=
イヌ(犬)ヒヒで話題となった「ドグエラヒヒ」の前では、あいかわらず今
日も大きな歓声とため息があがっています。ヒヒが口を大きく開けると、
口の奥まで良く見えて、その立派な歯並びが目に入ってくるからです。
特に大迫力なのは、オトナオスの上下4本の立派な牙(犬歯)です。



 ヒヒがこのように大きく口を開けるのはおおむね三パターンあり、
@仲間同士や飼育係に対して出る「威嚇」
A群れの中で緊張感が高まっている時に出るいわゆる「生あくび」
Bそしてのどかな午後に見られるような「本当のあくび」です。

 その時々の周囲の状況をご覧いただければ、どのパターンなのかが
推測できます。

 また、威嚇や生あくびの時には目を見開いていることが多く、本当のあ
くびでは無用心にも鼻の穴をおっぴろげ、目の方は閉じています。 平
和な午後にヒヒのあくびが度重なると、見ている人間(ひと)もあくびが
出そうになります。

 他人のあくびが伝染するというのは、実は高度な精神構造をもつ動物
しか持たない能力だそうですので、他人(この場合ヒヒですが…) (^_^; 
のあくびがうつってしまうのは、ちょっと誇らしい?生理現象かもしれま
せん。

 「サルにとっても歯は命!」。オトナのヒヒは獣医師の思うようにはい
つも口を開けてはくれません。サルがあくびをする時は絶好の歯科検
診の機会ですので、その時はしっかりと診察するよう心がけています。
                            (平成18年5月10日)

この原稿は中日新聞愛知県広域近郷版に掲載された「愛ラブ自然」を元に
写真は同カットですがフルサイズの写真を用いたり、新たな写真を加えています。またテキストは加筆修正を加えています。