おさる獣医師の動物園歳時記

いつもは裏方でサルの診療にあたっている「おさるの獣医師」が
緑豊かな動物園の自然と動物について
感じるままにシャッターをきり 書きとった「動物園歳時記」です。


 

 「猿のお尻はまっかっか!」このフレーズを聞いたことのない方はみえないと思いますが、実は尻の赤いサルというのは二百種ともいわれるサルの中でも限られた種でしかみられません。そして、顔も尻も赤いサルとなると唯一、ニホンザルを指すこととなります。
 ニホンザルは、大人になると顔や尻(陰嚢も)が赤く色づいてきますが、繁
殖期にあたる十月以降、その色づきがいっそう鮮やかに引き立ってきます。
 ニホンザルの顔や尻の赤は、絵の具や色鉛筆の赤色とは少し異なり、漆器に
あるような朱色のイメージの方が強いように思われます。我々日本人は、サルのお尻が赤いという先入観を普通に持っていますが、このことはやはり、身近な自然にニホンザルが生息し、長いつきあいがあったためではないでしょうか。
 赤とも朱とも表現できるこの色づきは、サルの体調に大きく関係があり、体
調管理をする上で重要な指標の一つになります。もともとニホンザルの顔や尻の皮膚は大変薄く、毛もほとんど生えていませんから、毛細血管が透けて見えるとも表現されるように、「血の気がない」とか「血色が悪い」ということを、そのまま顔色や尻色に当てはめて見ることができます。 野生哺乳動物の繁殖期は一般に、北半球の緯度が高いところで季節変化が明確な地域においては、これから冬にかけてとなります。真っ赤な顔や尻をしたオスのニホンザルを飼育する施設では、繁殖期の間、白くヒモ状になった精液が床に落ちているのをしばしば観察するようになります。
 生きものが、その種を残すために一日一日精一杯暮らすのがこの繁殖期です。色づきの秋は紅葉だけではありません。命ほとばしる、季節限定のサルの色づきも是非一度見ておいてください。(2007-10-10


この原稿は中日新聞愛知県広域近郷版に掲載された「愛ラブ自然」を元に
写真は違うカットを用い、テキストは加筆修正を加えています。