おさる獣医師の動物園歳時記

いつもは裏方でサルの診療にあたっている「おさるの獣医師」が
緑豊かな動物園の自然と動物について
感じるままにシャッターをきり 書きとった「動物園歳時記」です。


 

 「サルの気持ちがわかりますか?」。お答えは残念ながら「ノー」です。リラックスしているか、あるいは苦痛に耐えているかというような健康管理上必要なことは読み取れるようになるのですが、ドリトル先生のように心の機微まで理解できるようになるのはやはり無理です。そんな中でも、皮膚感覚を研ぎ澄ますことで、初めて接する動物達とも不思議なシンパシーを感じる方法がありますので試してみてください。
 
ワオキツネザルは、体温調節のために太陽の方向に両手を大きく広げる日向ぼっこをします。太陽熱を少しでも多く吸収するための必然なのですが、お腹丸出しの無防備なスタイルが愛らしく歓声があがります。ワオ達がこのポーズを取ったら同じように両手を広げてみて下さい。小春日和と木枯らしが交錯するこの季節が最も頻繁にこの姿を体験できます。季節風に吹かれて雲の流れが速く、太陽光が注いだり途絶えたりとその都度体感温度が変わることがその誘因です。ぽかぽか時にはお腹丸出しのワオ達ですが、日光が一旦翳ってしまうとその長くふさふさのシッポを身体に巻きつけて集団をつくり体温を奪われないようにします。その時にはご家族でハグしてみましょう。
 日向ぼっこ体験には、暖かな日が適しています。一方、冬至(今年は
1222日)から始まる冬の風物詩「たき火にあたるサル」(こちらはヤクニホンザル)の方は、寒い日の方がよくたき火に集まります。イソップ物語「北風と太陽」を真に理解するには、バーチャル体験ではダメです。北風の日と太陽の日とを、自然の中で過ごす実体験がなにより必要です。ぜひ一度動物園でご家族ご一緒に皮膚感覚を研ぎ澄ます機会をつくってみてください。サル達の行動とご自身の皮膚感覚とが同調する瞬間を親子で体感できるかもしれません。(20071212日)


この原稿は中日新聞愛知県広域近郷版に掲載された「愛ラブ自然」を元に
写真は違うカットを用い、テキストは加筆修正を加えています。