おさる獣医師の動物園歳時記
いつもは裏方でサルの診療にあたっている「おさるの獣医師」が
緑豊かな動物園の自然と動物について
感じるままにシャッターをきり 書きとった「動物園歳時記」です。
「今日は30℃だから涼しいね」などという会話が成り立ってしまった夏休み。 体温越えの猛暑日や記録的な真夏日続きが、 われわれの温度感覚を狂わせてしまったようです。 「サルは暑いところの生きものだから、暑くても平気でしょ?」 という質問も幾度いただいたことでしょう。 確かに熱帯、亜熱帯に暮すサルが大半ですが、 棲んでいる場所は過ごしやすいところを選んでいます。 一部のサルを除いてほとんど汗はかきませんし、 なにしろあの毛皮ですので、度を越した暑さともなれば 熱射病にも熱中症にも罹ります。 動物園では必要に応じて涼しくすごしてもらえるような工夫をしています。 体温調節が苦手なサルとして紹介されるワオキツネザルは、 暑さが苦手なサルの代表格。エアコンや送風機を設置しましたが これらに頼るばかりでなく、手指や体毛を舐めて気化熱で体温を下げ 施設内の涼しいところをさがして歩くなど、 経験と知恵で夏の暑さを過ごしていました。 ![]() 今春生れの子ども達が適応に苦労しましたが、 日陰のひんやり冷えた草むらの中で遊ぶ姿はとても気持ちよさそうでした。 ![]() 体温調節が苦手というと、「弱点が欠点」のように聞こえますが、 これを補って行動の多様性が引き出されているのですから、 「弱点も長所」と考えるべきなのでしょう。(2008年9月10日) 木村直人(日本モンキーセンター・獣医師) |
この原稿は中日新聞愛知県広域近郷版に掲載された「愛ラブ自然」を元に
写真は違うカットを用い、テキストは加筆修正を加えています。