おさる獣医師の動物園歳時記

いつもは裏方でサルの診療にあたっている「おさるの獣医師」が
緑豊かな動物園の自然と動物について
感じるままにシャッターをきり 書きとった「動物園歳時記」です。


 

ピグミーマーモセットは、南米アマゾンに棲む
世界最小クラスの真猿(サルらしいサル)で、
体長十三p、尾長二十p、体重百二十gほどしかありません。
野生では木から染み出る樹液を舐めて栄養とすることから
切歯(門歯)が発達して堅い木に顔ほどの
穴をあけることができます(写真、木の窪みがそれ)。


この小さな顎や喉の構造からでしょうか、
超音波を声門から発し、天敵から身を守るための
警戒音を頻発します。私達大人の耳にはその声の低い部分(可聴域)
だけが聞き取られて、小さく「チチチッ」と
静かな森の小鳥のさえずりのように感じます。
どの高さまで音が聞こえるかは個人差や年齢差が
大きくて(一般に子どもの方が良く聞こえる)、
多くの子ども達にはこの高周波音が聞こえ、
このサルを飼育する「南米館」という建物内が
大変騒がしいと感じるようです。

危険から逃れる時には、樹上からうつ伏せに落下する習性もあり、
下顎によく怪我をします。顎が習慣性に外れてしまう症例には
大変苦労しました。上手に餌が食べられないと、
柔らかい餌中心の給餌になりますが、
今度は歯垢が溜まって歯肉炎を起こしやすくなります。
大切な発声にも影響しますので、口腔内のトラブルは
ヒト同様サルにとっても一大事です。
このサルの鳴き声がどう感じるか一度試してみてください。

2008.11.12
木村直人(日本モンキーセンター・獣医師)


この原稿は中日新聞愛知県広域近郷版に掲載された「愛ラブ自然」を元に
写真は違うカットを用い、テキストは加筆修正を加えています。