おさる獣医師の動物園歳時記

いつもは裏方でサルの診療にあたっている「おさるの獣医師」が
緑豊かな動物園の自然と動物について
感じるままにシャッターをきり 書きとった「動物園歳時記」です。


 

 今回は「世界最速のサル」パタスモンキーのご紹介です。
パタスモンキーを飼育展示する当園アフリカ館では、
「犬みたい」「シェパードのよう」といった感想が聞こえてきます。



速く走るための要素を満たしていることを
外見上からも見て取ることができて、
細身の胴体、長い手足、バランスを取るための長い尾、
常にかかとを上げて歩く歩様などが特徴的です。

 文献上も時速五五キロメートルで走った記録が残されており、
猛スピードで犯人を追いつめる警察犬のイメージでしょうか。
海外では軽騎兵ザルとか軍隊ザルといった別名もあります。
一方美しい赤レンガ色の毛色から
レッド・モンキーと呼ばれたり、
ほとんど鳴き声を上げないことから
サイレント・モンキーとも呼ばれたりしているそうです。

また雌雄で体型差が大きいサルの一種でもあり、
並ぶとその違いがよくわかります(写真)。
雄の牙はたいそう立派で時々このように大きく
口をあけて犬歯をみせびらかしています。
この歯を武器に使うことはないようで、
咬みあったケガの治療経験はありません。
あくまで威嚇が目的のようです。

パタスモンキーにとって、
権威の象徴であるこの歯の存在は大変に大きなものです。
雄にとっても、心身ともに健やかに暮らしていくための
大事な器官になります。口を開けるのはほんの一瞬。
時々こうしてカメラを向けて連写・拡大し、
口腔内の健康をチェックするようにしています。
(2009年5月27日)

木村直人(日本モンキーセンター・獣医師)


この原稿は中日新聞愛知県広域近郷版に掲載された「愛ラブ自然」を元に
写真は違うカットを用い、テキストは加筆修正を加えています。


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