おさる獣医師の動物園歳時記

いつもは裏方でサルの診療にあたっている「おさるの獣医師」が
緑豊かな動物園の自然と動物について
感じるままにシャッターをきり 書きとった「動物園歳時記」です。


 


今回ご紹介するワタボウシパンシェは、体長24から30センチメートル、尾長30から40センチメートル、体重4百から5百グラム前後の小型のサルです。小さなサルですが多くの出産で双子が、まれには3つ仔が見られます。父親や兄弟も育児に参加しますが、3つ仔の場合は3頭全てが育つのは難しいようです。

日本モンキーセンターでは、ワタボウシパンシェの繁殖に取り組み、一昨年に3つ仔、昨年に双子の出産がありました。3つ仔のうち小さく産まれた2頭は残念ながら育ちませんでしたが、残る1頭の「ヒーちゃん」は両親と同じくらいの体格まで大きくなっています。昨年暮れに生まれた「シズク」と「シロップ」はヒーちゃんの育児参加も手伝って、順調に育っています。首を傾けるポーズはとても愛らしく、当園のパンフレット写真にも登場しています。

このワタボウシパンシェは、IUCN(国際自然保護連合)が発行する絶滅のおそれのある野生生物リスト(レッドリスト)において「絶滅寸前」に分類されています。古い動物図鑑を見ると、野生のワタボウシパンシェの棲んでいる場所は「南米コロンビアとパナマ」とされていましたが、最近の資料では「パナマ」の文字は消えています。また、60年代から70年代には3万頭以上いたとされる頭数も、今では数千頭まで数を減らしているそうです。そうした原因には医学研究用に捕獲されたことや都市化による森の減少、ペット化などがあげられています。

国内の動物園でもワタボウシパンシェを特に種の保存が必要な種と位置づけ、飼育園を増やして繁殖に力を入れてきました。可愛いいシズクやシロップも国際的な自然保護活動の一翼を担ってくれています。

南米館で親子仲良く暮らしていますのでどうぞ犬山へ会いに来て下さい。(2017.4.19)

 木村直人(日本モンキーセンター・獣医師)

この原稿は中日新聞愛知県広域近郷版に掲載された「愛ラブ自然」を元に
写真は違うカットを用い、テキストは加筆修正を加えています。


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