おさる獣医師の動物園歳時記<秋>

いつもは裏方でサルの診療にあたっている「おさるの獣医師」が
緑豊かな動物園の自然と動物について
感じるままにシャッターをきり 書きとった「動物園歳時記」<秋編>です


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リスザルの島で遊ぶリスザルの子ども(2000年9月*)

 名鉄犬山遊園駅からモノレール線「動物園駅」を降りると、そこはすでに世界サル類動物園の中。駅正面にこんもりと木々の繁った「リスザルの島」があります。現在、島には今年生まれの赤ちゃん1頭を含む14頭のリスザルがかわいらしい姿を身近で見せてくれています()。
 「空と土と水と緑があって、そしてバッタなど自然界の仲間もいる」という放し飼い方式の島は、サルが本来持っている枝渡りや虫捕りなどの自由な動きや自然に近い子育ての姿を十二分に引き出せることから、彼らにとっての「すばらしき楽園」といえるでしょう。
 一方飼育する側には健康的な楽園を提供するために、緑の維持とサルの健康管理に特別な配慮が求められます。体重1キロに満たないリスザルですが枝渡りによる木々へのダメージが少しづつ蓄積します。負荷を分散させるために、新たに木を植えなければなりません。
また飼育係には、見た目が同じサル1頭1頭を、毛の生え方や目元の優しさまでも手がかりにして個々を見分け、健康状態の観察や、体重チェックもしてもらっています。 
 特にこの夏は記録的な酷暑が続き、9月に入ってもタオルが手放せません。しかしながら島内の木陰は大変涼しく、横枝で休息するリスルの姿をよくみかけることができます。



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アビシアコロブスの真っ白な赤ちゃん(2000年11月**)

 子育てが難しい時代です。実り多い秋の一日、子どもと過ごす時間を少しでも大切にしたいと思います。今日(**)は、サルの子育てを見てみましょう。
 子を保護色で隠すのが野生の定法と思われていますが、逆の手もあります。黒色ボディに白いショールをまとった優雅なサル・アビシニアコロブスの赤ちゃんは、生後数ヶ月の間だけ、全身真っ白で非常に私たちの目をひきます。またこの時期は母親以外のサルに実によく面倒をみてもらい抱っこされています。後に一人で枝渡りができるようになる頃、親と同じスタイルに変身し、その時には群れやまわりの風景に紛れてとけ込んでしまっています。乳児を社会全体で加護するために目立たせる戦略なのでしょう。  
 サルの世界では親の立場や性格が子育てに強く反映されるようです。母系社会と強い群れ内順位を持つニホンザルの社会では、下位の母親はとても神経質で片時も子を放さず、騒ぎが起きればすぐに逃げ出す構えをとっています。食事の時ですら、子どもの後ろ足を握って離しません。一方、力の強い上位の母親の子育ては「自由放任」。平時、子はしょっちゅう、よちよちと親から離れ歩きその旺盛な好奇心を満足させています。強い母親の一族が集団で見守る保証があるからなのでしょう。
 子育てにサルの種類や母親の数だけ手法があって、皆で取り組むのが興味深いですね。

 

(*)および(**)は、中日新聞愛知県内版週末に掲載された「愛ラブ自然」掲載時期を表わしますが、
このページでは、写真は掲載されなかった写真を用い、原稿も一部加筆修正を加えております。


 
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