1.はじめに

  
 東アフリカに位置するタンザニア。世界遺産に登録されアフリカでもっとも有名な国立公園の1つと言っても過言ではないセレンゲティ国立公園、チンパンジーの長期調査で有名なゴンベ国立公園やマハレ山塊国立公園、アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロなど、豊かな自然と野生動植物で知られる国です。

 一方、タンザニアは現代アートの世界でも有名な国です。マコンデの彫刻、あるいはエナメル絵具で描かれるティンガティンガは土産品としても販売されており、大量に生産されるポップアートとして知られています。また、ジョージ・リランガをはじめとして、欧米や日本などでコレクションされる傑出した作家も輩出しています。

 本展では、タンザニアで多くのアーティストと直接交流されてきたシェタニアートの金山麻美氏が所蔵する彫刻と絵画のコレクションを展示します。マコンデの人々の想像力から生み出されたタンザニアの精霊の世界をお楽しみください。


【マコンデの人々と芸術】

 タンザニアとモザンビークの国境線、ルブマ川流域地域のマコンデ高原を中心にくらすのが「マコンデ」の人々です。この地域からタンザニアの首都ダルエスサラームに移住した人たちがいます。この移住した人たちが制作した芸術作品が、現在世界的に知られるようになりました。

 マコンデの名を有名にしたものの1つが彫刻作品です。もともと、マコンデの人々にはアフリカンブラックウッド(スワヒリ語ではムビンゴ) の木から一刀彫で彫刻を彫り出す、という文化がありました。それは日常生活にあったさまざまな信仰に由来するもので、儀礼に用いられていたとされます。「マコンデの人々はムビンゴから生まれた」という昔話があるほど、ムビンゴ、そしてそこから生み出された彫刻文化はマコンデの人々の間に深く根付いているようです。それが現代では人物や動物、そして今回ご紹介するシェタニなどさまざまなテーマをモチーフとして彫刻作品が制作されています。


【タンザニアの精霊:シェタニ】

 本展のキーワードであるシェタニは、スワヒリ語で精霊、あるいは悪魔を意味する言葉です。その語源はヨーロッパの「サタン」と共通すると言われています。シェタニは時に人を助けることもすれば、悪さをして困らせることもある存在と言われています。人に似た形、動物、明らかな怪物など、さまざまな姿で表現されています。

 本展に絵画作品が展示されているヘンドリック・リランガは、「シェタニにはいいシェタニと悪いシェタニがいる。自分が描くのはいいシェタニだけだ」と語っています。確かに、彼が描くシェタニは悪魔のように悪さをするものではなく、精霊なのに妙に人間的で、感情豊かな日常を過ごしています。

 一方で、彫刻作品で彫り出されるシェタニには、人の形をしたものもある一方で、非常に奇妙な姿をしたものもあります。マティアス・ナンポカの作品には特にその傾向が顕著にみられます。目や口、角などのパーツは確かにあるものの、全体の姿はとらえどころのない、怪物然とした不可思議な姿をしています。こうした作家の想像力からくる「自由さ」がシェタニの世界の大きな特徴と言えそうです。


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