おさる獣医師の動物園歳時記

いつもは裏方でサルの診療にあたっている「おさるの獣医師」が
緑豊かな動物園の自然と動物について
感じるままにシャッターをきり 書きとった「動物園歳時記」です。


 
      

「ナマケモノはサルに非ず」

 今日ご紹介するのは南米ニカラグアからペルー、ブラジルに棲息するナマケモノの仲間「フタユビナマケモノ」です。開催中の特別展「アマゾンの光と影」のコーナーで飼育展示中です。
 名前の由来となった「フタユビ」とは、前足の指が2本あることに由来し、写真のように指から伸びた大きな湾曲した爪を上手に引っ掛けぶら下がります。(一見サルに似ていますが、サルではありません)
 大半を木の上で暮らす生きものとして、サルと同じ樹上性と言えるのですが動きはゆったりとしており、木から木へジャンプするようなことはみられません。夜行性展示室で飼育していたスローロリスのコーナーでナマケモノと勘違いをされる方がみえました。スローな動きをする代表的な生きものの一つと捉えられていたのでしょう。(くどいようですが、ナマケモノはサルではありません)
 一方でテナガザル舎の前でも同じように「あっナマケモノだ!」と歓声をあげるお子さんと出会います。なるほどナマケモノはテナガザル同様、足より腕の方が長く、移動途中では木から足を浮かしている瞬間もありますので、こちらもなるほどと思って聞いています。(聞いたら、さりげなく、ナマケモノはサルではないことをお話させていただきます。足より手の方が長いことに気づかれたお子さんの観察力はすごいことですから・・・。)
 このナマケモノはメスで「ハナちゃん」の愛称で呼ばれています。東山動物園生まれの2歳半です。ナマケモノの雌雄判別(外観上のオスかメスかの判断)は大変難しく、ハナちゃんも遺伝子診断でメスであることが確認されました。(サルの仲間にも外見上の雌雄判断が難しいものがいますが、ここまでは難しくはありません。)
 特別展ではサルと比較して、手足の指(爪)、濡れた大きな鼻(嗅覚)、毛の生え方(毛並)、目の周りの頭蓋骨の形について詳しく解説しサルとの違いをじっくり見ていただいております。どうぞこの機会にハナちゃんに会いに来て下さい。(動物園ゲートから入園されて正面のビジターセンター内に居ます。)(2013.07.03.)

(あとがき)
 長年、このコーナーで「おさる獣医師の動物園歳時記」を書いてきましたが、サルの仲間以外の動物をメインで取り上げたのは、今回が初めてです。私にとって、このナマケモノの治療はとてもインパクトがあり、貴重な体験となりました。

 木村直人(日本モンキーセンター・獣医師)

この原稿は中日新聞愛知県広域近郷版に掲載された「愛ラブ自然」を元に
写真は違うカットを用い、テキストは加筆修正を加えています。


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