里の動物として生きる西アフリカのチンパンジー:

人とアブラヤシとの4000年史

 

山越 言

 

京都大学

 

西アフリカのチンパンジーは、コートジボワール西部のタイ森林など、限られた熱帯林に生息するいっぽう、セネガル南部などの乾燥地環境や、農業の影響を強く受けた二次的環境にも適応している。西アフリカ沿海地域には「パームベルト」と呼ばれる、アブラヤシを基幹とした田園景観が広がり、チンパンジーがネストや食物資源としてアブラヤシに強く依存する姿が明らかになってきた。西アフリカの在来農業システムにおいて、焼畑を介した人とアブラヤシの関係は独特かつ密接である。花粉分析などの研究から、アブラヤシ二次林の歴史はほぼ4000年前から発達したと推測される。チンパンジーを長きにわたって人里環境に適応した「里の動物」として見ることで、アブラヤシの実を対象にしたチンパンジーのナッツ割り文化の発達史を、新たな文脈に置き直すことが可能であろう。タイ森林では、ほぼ4000年前のチンパンジーのナッツ割りの考古学的痕跡が確認されており、このような年代の符合も興味深い。

 

 


世話人:市川光雄・清水大輔・大橋岳(日本モンキーセンター)




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