今回はフクロテナガザルのイチゴとピーチの園内移動についてのお話をご紹介します。
テナガザル飼育担当の奥村です。こんにちは。
今回で4回目のご紹介となります。
これまでのお話はこちらからご覧ください↓(サロン限定記事を含みます。)
6月中旬には移動先であるギボンハウスの準備が整いました。
溶接特訓の成果でもある屋外シュートも土台にピタリとハマりました。
エコドームで歩き慣れたシュートの格子幅と全く同じもので作りたかったため、ギボンハウスの出入り口のサイズに合わせるのに苦労しました。
ただ、溶接のしすぎで溶接棒を挟むホルダーの先が変形してしまったため、慌てて新品のものに交換しました。
シュート以外の部分でも、寝室にとまり木を新設しました。イチゴとピーチがこれまでエコドームでは2×4という角材1本の上に寝転んで休んでいたため、馴染みのある角材と、やっぱり自然木でも休んでほしいな、という思いからネズミモチやヒサカキの幹を用いて2種類の選べるとまり木をつけてみました。
また、フクロテナガザルはテナガザルのなかで体が最も大きい種となるため、天井の格子に直にぶら下がる負担を考え、天井にも自然木の“うんてい”をつけたいと常日頃思っており。
狭い天井裏を這いずり回って、何度も足をつりながらとはなってしまいましたが、なんとか“うんてい”も設置することができました。
また、ギボンハウスの屋外エリアは植栽が茂ってくれているのですが、寝室も緑が欲しいなと思い、水換えや挿し木ができるように塩ビ管を利用した“木瓶”なるものを設置しました。
寝室に慣れてくれたらこんもり緑を入れてみたり。
また、エコドームに比べるとギボンハウスの寝室は少し手狭なため、そういったこんもり緑や、とまり木の配置によってお互いの姿がちょっと見えない位置で休んだりすることも、選べるようになると良いなと思っておりました。
ケージへ移ってもらうトレーニングも順調に進み、イチゴもだいぶ慣れてくれたため、2頭の性格を考え、イチゴから先にギボンハウスへと移動してもらうこととしました。
きっとイチゴは、ピーチが運ばれていくところを見てしまったら、ケージに寄りつかなくなってしまいそうだったからです。
ピーチはきっと来てくれる予感しかなかったので、、、
6月29日、実際にイチゴの移動をおこないました。
トレーニングではうまくいっておりましたが、本番はやっぱり緊張するなぁと。
イチゴを分けたいのに、ピーチめちゃくちゃ入ってくるなぁと。
少し時間はかかりましたが、イチゴのケージへの誘導に成功。
最初びっくりするほど落ち着いていたイチゴ。さすがだなぁと感心していたのですが、運び手としてスタッフの数が多くなると、ちょっとそわそわした様子。
ギボンハウスの屋外エリアから新設したシュートを通り、寝室へと無事に移動することができました。
寝室でしばらく様子をみた後に、屋外エリアと共通にしてさらに様子を見ることとしました。

初めての環境にそわそわと少し落ち着かない様子もみられましたが、
だんだんと落ち着きを取り戻していってくれました。

イチゴは屋外エリアいることの方が多く、その週も暑い日が続くこともあったため少し心配してみていたのですが、涼しい寝室にはいつでも入れるようになっており、なんとか過ごしてくれているようでした。
イチゴとピーチが離れ離れになった1週間。イチゴは新しい環境ということもあり、しゅんとした様子が時折みられました。ピーチも場所はエコードームのままなのですが、やはり少し落ち着かない様子が時々みられるように感じました。
できるだけ早く2頭をまた一緒にしたいな、という思いは強かったのですが、イチゴの移動の後で、やっぱりピーチが警戒して移動用のケージに近寄らなくなってしまわないか、という懸念もありました。
そんなことはなく。
揚々とケージに入ってきてくれるピーチ。
ということで、イチゴが移動した翌週の7月6日にピーチをギボンハウスへ連れていくこととしました。
移動当日もピーチを誘導することができ、無事にギボンハウスの寝室へと移動が終わりました。
イチゴの時よりも少しそわそわしている様子もあったので、初めはピーチに寝室。イチゴに屋外エリアで過ごしてもらっていたのですが、しばらくしてエリアを共通にし、同居を再開することにしました。
イチゴが屋外シュートの端から寝室を覗き込み、一瞬「アッ」というような表情をみせて後退しました。
もともと一緒にくらしていたのですが、1週間離れていたことでまさか亀裂が、、、
その瞬間はとても肝を冷やしたのですが、再びイチゴがシュートの端から寝室を覗き込みに来た時に、ピーチも寝室から顔を出しました。
ピーチはイチゴを見て「イチゴだぁ」とちょっと安堵するような表情だったと思います。
互いに近づきシュート内中央で顔を寄せ合いあいさつ。
万一でもケンカとかはないよねって思ってはいましたが、この様子が見られて涙が出るくらいほっとしました。
そしてイチゴがピーチを誘い出すようにして、ゆっくりとピーチは屋外エリアへと移動していきました。

(手前:ピーチ、奥:イチゴ)
新しい環境をぐるりと見回すピーチ
1頭で先にやってきたイチゴは「そこは、見た目より距離あるから気をつけた方がいいよ。」みたいな感じで、新しい環境に慣れていくピーチを見守っているようにも見えました。

(左:イチゴ、右ピーチ)
しばらくして、少し落ち着いた様子のイチゴとピーチ

(左:ピーチ、右イチゴ)
午前中のうちにエコドームからギボンハウスへの移動が終わり、ピーチにとっては移動初日ということもあり、日中はギボンハウスの植え込みの剪定をしながら共に過ごし、2頭の様子を見ていました。
イチゴの初日に比べると、やはり2頭でいるためピーチが落ち着いた様子を見せるのも早く。屋外エリアの樹木の木陰をゆっくりと探索したり、エサにも早めに反応を示したり、イチゴとピーチで一緒になっているところもよく観察されました。
その日は暑い日ではありましたが、イチゴが先んじて過ごしていた1週間のなかでは、さらに暑い日もあったため、涼しい寝室と共通になりいつでも行き来できるようにもなっていたことから、日中の観察をいったん切り上げ、他の作業をして、夕方様子をみにいった際。
ピーチが屋外で横たわっているのを発見しました。
声をかけても反応がなく、急いで病院へと連れて行きました。
病院について時にはすでに呼吸が停止しており、心臓マッサージを懸命に続けましたが、ピーチが再び息を吹き返すことはありませんでした。
後日、剖検の結果死因は熱中症の悪化による多臓器不全であったことがわかりました。
日中、観察をしているなかではピーチが自ら暑さを凌ぐような行動をみせていたことや、イチゴとの関係も良好のようにみえていたため、ここまでの急変を予測することができませんでした。
もしかしたら、何かの原因でパニックを起こし、屋外で急に激しく動くようなことがあり、そのまま体調に異変をきたしてしまったのかもしれません。
ピーチの容態が急変し苦しんでいる時にそばにいられなかったことが悔やまれてしかたがありません。
ピーチはドリアンとマユの間に生まれた個体で、生まれて2日目にはマユが床に置いてしまい、抱こうとしなくなってしまったため、人工哺育で育てられた記録があります。
生後4ヶ月ほどで同じフクロテナガザルたちがくらすエコドームの隣の寝室内のケージで過ごすようになりました。

1歳ごろのピーチ
2歳の頃にはケージ越しにケガをしてしまい、治療をしてもらっていたのですが、左腕を失うこととなりました。
そして、4歳頃からイチゴと同居に向けた顔合わせが始まり、6歳になる頃にはイチゴと終日一緒にすごせるようになりました。
そこから5年間、イチゴとともに過ごしたピーチ。
そんな2頭の今回の移動にあたり、数ヶ月に渡り準備を進めてきました。
新しい環境へ移る際にどうやったら負担を少なくできるかを懸命に考え、どうやったら快適に過ごしてもらえるのか、、、
ちょっとやそっとのきつい作業もイチゴとピーチが元気に過ごしてくれているからこそ、やってこれました。
週に2日間、テナガの飼育担当をすることになってちょうど1年が経ちます。
ピーチを育ててくれたスタッフや、彼女たちのことを長くみてきたスタッフがいなくなってしまってからは、少しでも早くその代わりになれるようにと。
そんな気持ちで日々向き合い、ピーチのこともわかってきたつもりになってしまっていたのかもしれません。

最後に。
本来であれば、ピーチが亡くなったことを皆さまにも、もっと早くお伝えしなければいけなかったのですが、自身の療養のためしばらくお休みをいただいていたこともあり、お知らせが大変遅くなってしまったことをお詫び申し上げます。
イチゴさんが健やかに暮らしますように。
ピーチのこと。ありがとうございます。
どうか安らかに。
奥村さんのお気持ちを思うと…ご自分を責めないでくださいませ。気圧や天気の急激な変化、酷暑と環境が厳しいなかみなさまの努力にはいつも頭が下がります。ピーチちゃんいろんなことを経験したりいちごちゃんと暮らしたり楽しいこともいっぱい経験できたと思います。私はピーチちゃんを通してテナガザル、JMC、そして動物のおかれている自然破壊と知ることができました。ありがとうとピーチちゃんに伝えたいです。奥村さんが元気にそして辛い気持ちが少なくなるよう願っています
お辛いなか経緯をお伝えくださり本当にありがとうございます。担当の皆さまの嬉しいことも辛いことも、それを経験なさったかたにしか出来ないお仕事や気づきがあると思います。日々の皆さまの努力に光が差しますように。
イチゴとピーチのお引越し、上手くいくといいな、
2人にもっと近くで会えるようになるのはいつかな?と毎回、記事を楽しみにしていました。
そんな中での、ピーチの訃報におどろきと悲しみでいっぱいでした。
引っ越しの様子や最期の様子がわかって、よかったです。
ありがとうございます。
残されたイチゴがこれからも元気で過ごせますように。
このようなご報告となってしまったこと、改めてお詫び申し上げます。
あの時そばにいられなかったこと、あの時こうしていればという思いが幾重にも重なります。そして、イチゴとピーチが2頭で再び一緒になった時の光景が頭から離れません。
コメントを寄せていただいた皆さま、園内でもあたかかいお言葉をかけてくださった皆さま、誠にありがとうございました。(奥村)
奥村さん、お知らせ頂きありがとうございます。飼育の部屋を読んで、言葉が見つからずなかなかコメント書をけませんでした。ご自分を責めずに、イチゴを見守って下さい。きっと高い高い空の上から、キュータロウとピーチが並んで見てくれていると思います。