アドバイザー:打越万喜子
テナガザル担当:山田、石田
日本モンキーセンターには5種27個体のテナガザルが暮らしています。彼らの特徴的な行動に「歌」と呼ばれる、凝った長い音声コミュニケーションがあります。園の内外に響きわたるその声は、彼らのその日の調子を教えてくれます。
ボウシテナガザルのカナコが歌わない・・・。今年の2月からです。カナコは2008年にカリフォルニアのテナガザル保全センターから移されました。モンキーセンター生まれのカン君のパートナーとして7年間すごし、ふたりのこどもが2009年と2012年に生まれています。息ぴったりのデュエットは朝の日課といえるものでした。しかし2016年2月10日にカン君が大きなケガのために入院すると、その翌日からピタリと歌うのをやめたのです。

カナコ♀
4月4日にカン君を退院させ、まだ万全ではない体調に配慮しながら、1日半かけて段階的に出会わせ、カナコの元に戻すことができました。近くに座る・グルーミングする・交わる、など親密な様子が観られました。翌7日の朝、カンとカナコは幾分ぎこちなく声をかけあい、一緒に歌い始めました。この日は約1時間続き、いつもより長かったです。57日ぶりの歌でした。10日が経ちましたが、毎朝欠かすことはありません。

カン♂(左)とカナコ♀(右)
テナガザルは色々な要因で歌ったり、歌わなかったりします。2015年に、テナガザルの主要な生息地、ボルネオ島で数ヶ月にわたる大規模な森林火災がありました。ひどい煙で人々の生活にも被害がでました。ボルネオ南部の調査地からの報告によると、テナガザルの歌の回数が劇的に落ちたとのことです。煙で息が苦しくて歌いにくいのか。家族と離れ離れになってしまったのか。その他の理由かもしれません(記)。
復活したカナコの歌声、ほかのテナガザルの元気な声を耳にするとき、彼らの野生の仲間のことを想像してみてください。
記:森林火災をモチーフにして、「歌をなくした小さなテナガザル Little gibbon who lost his song’」と題された絵本が2016年4月に「オランウータン トロピカル ピートランド プロジェクト」というNPO団体から出されました。英語・インドネシア語の二カ国語で作られ、インドネシアの学校などで配られるそうです。大切な森と動植物の存在に意識がむけられる、きっかけとなると良いですね。さらに詳しくは以下をご覧ください(英語サイト):
http://outrop.blogspot.jp/2016/04/behind-storybook-little-gibbon-who-lost.html?m=1
○あわせて読みたい:
・小池純(2010/2/21).お嫁さんは今.飼育の部屋vol.250. http://www.j-monkey.jp/keeper/koike/heya/koori.html
・小池純(2008/5/12).「嫁入り」飼育の部屋vol.48.
http://www.j-monkey.jp/keeper/koike/heya/kanako.html