■犬山の日本モンキーセンター 60周年にあたって

日本モンキーセンターは、サル類の総合的研究、野生ニホンザルの保護などを目的として設置されている公益財団法人です。
1956(昭和31)年に設立され、翌年、1947年に、愛知県で2番目の、博物館法の適用を受けた登録博物館となりました。
60年前も今年も丙申の年です。陰陽五行では、丙が陽の火、申は陽の金で、相剋(火剋金)とされており、火が金属を溶かす関係ですが、
溶かした後は新しい道具を生み出します。
2014年4月に公益財団法人に移行しました。その目的は、定款に定められており、
「霊長類に関する調査研究を基盤に、その保護と生息地の保全を行い、社会教育・普及活動や図書等の刊行、標本等の資試料の収集、
さらには福祉に配慮した動物園の設置および経営等を通じて、学術・教育・文化の発展及び地域社会の調和ある共存に資すること」とされています。
このセンターは、「世界サル類動物園」を附属施設として持っています。サル類の特徴を活かした展示、多くのガイドやキュレーターによる博物館活動が行われており、
学術的な面を持つ動物園として楽しんでいただけると確信しています。
位置的には、株式会社名鉄インプレスが運営する日本モンキーパークと、京都大学附属霊長類研究所との間にあります。
世界的にも珍しいサル専門の動物園で、生きた霊長類の展示施設としては世界最大の規模を誇っております。
飼育展示種数は、60種以上約900頭で、世界最多と言えます。
大きな特長は、動物園のスタッフメンバーがサル類の生まれ育つ現地へ研修(生息地研修)に出かけて観察していることです。
その報告もウェブサイトで多くの写真とともにご覧いただけます。
このように時間と費用を投入しながら、野生の動物の生態への理解を深めることのできる世界サル類動物園を実現する活動にご注目いただき、
ご支援をいただきたいと思います。
センターには「友の会」があります。さまざまのイベントを紹介するウェブサイトがあり、日本語だけでなく、
英語、中国語、フランス語、ポルトガル(ブラジル)語でも情報発信しています。
訪問された方の写真と紹介もあります。京大モンキー日曜サロンや、京大モンキーキャンパスという講演会もあります。
ラテン語で霊長類のことを「プリマーテス」と呼びますが、その名前を冠した「プリマーテス研究会」は、
センターが年1回(毎年1月末の週末に)開催する霊長類に関する研究会で、どなたでも参加できます。

ところで、日本には、「犬猿の仲」という言葉がかなり明確に定着しておりますが、理事長として私の一番知りたいことで、まだ解明されていないのが、
この言葉であります。犬山という土地に設置された事情はわかっているのですが、妙に気になるご縁であります。
日本には北限の猿と言われる日本猿(ニホンザル、学名はMacaca fuscata)がいます。
哺乳綱サル目(霊長目)オナガザル科マカク属に分類されるサルです。雪の中にいて、地獄谷野猿公苑(やえんこうえん)には、
長野県下高井郡山ノ内町の地獄谷温泉にある野生の日本猿がいて、冬は温泉に浸かっています。ここも国際的な観光地となっていて、
英語で「Snow Monkey Mountain」と呼ばれています。
「猿団子」という光景も知られています。日本で寒い時期に日本猿が押しくらまんじゅうのような形で、身体を温める様子が見られます。
各地で冬の風物詩となっており、新聞などにも紹介されます。小豆島の銚子渓自然動物園などでよく見られます。俳句では季語を詠みますが、
この猿団子も冬の風物として、どなたかが名句を詠んでくださると、やがて歳時記に登録されるかもしれないと、私は以前から俳人たちに話しています。
猿という字は、歳時記では、秋の猿酒と新年の猿廻しだけが掲載さ入れています。自然の猿を詠んだ句は、ほとんど見当たりません。
皆さんもぜひ自然の日本猿を俳句に詠んでみてください。
私は、日本の大学には動物園がないのが問題であると昔発言したことがあります。
その発言を覚えていた、大学の研究施設としての動物園を実現しようと考えてくださったのが、この日本モンキーセンター所長の松沢哲郎先生です。
彼は、この日本モンキーセンターの他にも、京都市動物園や、名古屋市の動植物園などでも、大学と連携した活動ができるように仕組みを整えてくれました。

話が飛びますが、昨日、大阪で、中国人日本留学120周年記念の行事がありました。そこで私は地球科学の日中交流40年という基調講演をしました。
その時、昔、秦嶺山脈の山奥で、おばあさんが小さなキウイフルーツの実を売っているのを見つけました。ミホトという名でした。
「ミ」は獣偏に彌、「ホト」は猴桃と書きます。調べてみると、中国は年間生産量が30数万トンで、世界第2のキウイフルーツの産地であることがわかりました。
陝西省の生産量は20万トン以上だといいます。秦嶺山脈に産地があります。
なぜこの話をするかというと、猴は猿のことだからです。中国の甘粛省、湖北省、四川省、陝西省などにいる金糸猴(キンシコウ)の調査を松沢先生も行っておられますが、
このような猿類の研究でも、日中交流は盛んであり、東アジアの猿類の研究の中心となって、大いにこのセンターも活躍してほしいと私は思っているのです。
それと同時に、最初お話しした犬猿の仲という言葉についても、なぜそのように言われるようになったのかというような、
人文社会学的な調査や研究もこのセンターで行ってほしいと思っています。
仲の悪いことを現すのに、犬と猿を使うのは、日本と韓国だけのようです。多くの国では猫と犬です。中国でも猫狗(犬のこと)の仲です。
犬と猫が使われるのは、20か国ほど知られているようです。
このようなことも、多様な文化の理解には大切であり、人文科学の分野での猿類の研究もこのセンターの研究課題であってほしいと思ったのであります。
とりとめもない式辞になりましたが、犬山にいる猿類の動物が、人と仲良くのびのびと暮らしながら過ごしている動物園として、末永く維持できるように、皆様のご支援をお願いして私の挨拶といたします。
今日は、60周年記念の式典にご参加、ありがとうございました。
2016年10月17日
公益財団法人日本モンキーセンター理事長
尾池和夫