■京大モンキーキャンパス 記録サークルによる講演記録
京大モンキーキャンパスの受講生が、自主的に記録サークルを立ち上げました!
受講生しか聞くことができない講演の様子を、サークルメンバーの視点でレポートします。

   
 11/13(日)「アフリカの地溝帯で化石人類をもとめて30年」
  諏訪元(東京大学総合研究博物館教授)
《講義抜粋》 東アフリカの初期人類の化石の発見は、1950年から60年代初頭にはわずか10点ほどだったが、今では1500点以上に増えている。そうした蓄積により、60年代に語られた「200万年の人類史」が、2000年代には650~700万年近くまで辿れるようになった。諏訪教授による440万年前のラミダス猿人の化石発見により、アウストラロピテクス以前の人類像が初めて多面的に認識できるようになったが、講義では、そうした現地での化石発見のエピソードとともに、エチオピア南部のコンソ、チョローラなどで発見された200~80万年前の石器発見の意味などにも触れた。
 アフリカ大陸を南北に縦断する巨大な地溝帯があり、そこから遠い人類の化石の数多くが発見されていることが、私にとってこれまでの講義を聴くうえで大きな謎の一つでした。諏訪元先生の講義は今回、実に明快にその疑問に答えてくれました。
 大地溝帯はエチオピアから南アフリカにかけて、大陸を南北に6000キロ以上にわたって縦断する長大な谷間です。そしてその地溝帯の存在は、これまでの講義でもアフリカ大陸の気候や植生を大きく変える要因になったと説明を受けてきました。
 ごく限られた私の知識だけでもタンザニアのオルドヴァイ渓谷の初期人類の化石や約360万年前の人類最古の足跡化石が思い浮かびます。さらに、伊谷純一郎先生がお書きになった本からは、1500万年前のナチョラピテクスの発見(このナチョラと、諏訪先生のチョローラを当初混同していました)なども浮かびます。
 そして、そこがコンゴ盆地の東側に当たり、「熱帯林を出た人類が、乾燥地帯を東進した」というこれまでの説明に、なんとなく「ああ、だから人類の古い化石が出るのか」などと漫然と考えていたのですが、さしたる根拠もありません。

 今回、諏訪先生は、アルディピテクス・ラミダス(ラミダス猿人)の発見の経緯とともに、その大地溝帯の生成についても説明してくれました。
 ラミダス猿人そのもの発見は無論大発見です。でも、その前に大地溝帯からいきましょう。
 先生の説明を概略すると、アフリカ大陸の奥底にはマントルプルームがうごめいていて、常に東西に引っ張られる力が働いている。それがちょうどアフリカ大陸東部にある。
 引っ張られて落ち込むと、また、マグマの力で隆起したりする。隆起帯と沈降帯が複雑にでき、沈降帯には大なり小なり堆積が起きる。堆積物の中に自然に骨が取り込まれて化石になる。そしてまた、隆起して古いものが取り込まれる、といったイメージだと言います。




 こうしたことがおそらく数百万年単位で繰り返されてきたのでしょう。そんな場所から初期人類の化石が見つかること自体まったく奇跡のように思えるのですが、先生によると、埋没すると化石になりやすいことと、発見される機会があるという二つの条件がそろっているというのです。
 その一例として、たとえばセレンゲティの動物公園をあげます。広大なサバンナは、実はこうした沈降帯の上に当たるそうで、平原には動物がいっぱいいます。そして水辺にはさまざまな動物がやって来ます。
 場所によっては8割方がカバの骨で、それはハイエナが食い散らかした痕だったりする・・・。
 こんなことが営々と繰り広げられ、繰り返されるうち、ある日、一人の人物が通りかかる。ひょいと車を降り、あたりを歩き回って探すうち、動物の骨の化石の中にちょっと変わった歯の化石を発見する。それが諏訪先生というわけです。
 そこを先生の講義から再現すると、「アレマイユ・アストンさんという70歳代でエチオピア人研究者の化石発見の名人がいまして、彼と1987年に1週間、同行する機会があった。一緒に地面を見て歩く。どこの地層に何があるかも教えてくれないのでひたすら背中を見て学ぶ。そもそもターゲットが目に入るか入らないかなのですが、彼の目には私の数倍入っているようだった」
 もちろん、そこはアフリカの乾燥地帯。諏訪先生は午前、午後に1リットルずつ水を飲み、あとはひたすら歩き回ります。そんな折、アレマイユさんより先に化石を見つけ出すと、「何でオレより先なんだ」と、ちょっとショックを受けた表情で見返したりします。

 そんな経験が92年12月、ラミダス猿人の大発見に繋がります。その時もアレマイユさんと一緒で1日の調査を終えた帰りがけ、アレマイユさんから「1キロほど離れた場所にサルのいい化石を見つけたから、寄り道しながら帰りましょう」と誘われます。
 目印にアレマイユさんがケルンを積んだ場所に行き、10人ほどの一番最後を歩くと、すぐ脇に歯の先端がちょっとだけのぞいていた。「これは面白そうだ」と拾い上げて裏側を見ると、それこそまさにラミダス猿人の歯だったといいます。
 ところが、その歯は進化の過程を探るうえでは重要性の低い、いわゆる親知らずだったそうです。で、「よりによって親知らずかよ」とがっかりしたのだそうですが、翌日以降、詳細な調査を行うと、あご骨や乳歯など重要な化石が続々と見つかったそうです。

 さて、先生はフィールドでの発見の一番の原動力について「集中力」をあげられました。そしてただ見るだけでなく、例えば歯の一部の小さな形など、何を発見したいかをイメージしながら歩くことの重要性を指摘しました。
 でも、1日2リットルの水を飲みながら、おしっこさえ催さないという干からびた大地で、集中力を持続させるということが本当に可能なのでしょうか?
 その点について、先生は講義後の質問タイムでカリフォルニア大学バークレー校に留学した80年代、文献や標本に当たりながら、「相当トレーニングをした」と述べています。
 それは、よほどのトレーニングだったのでしょう。そうした蓄積に蓄積を重ねたすえに、すでに「知識」が血肉化したとしか言いようのないレベルに達していたのだと思います。そうした眼を持って歩くと、ほんの小さな化石でも、その全体像が瞬時に捉えられるようになる。それが先生のおっしゃる「集中力」なのだろうと思いました。
 どこか、静かで穏やかな語り口のなかに、学者の執念(あるいは念りき力)といったものを垣間見せてくれた講義でした。

文 : 京大モンキーキャンパス受講生 柴田永治


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