■京大モンキーキャンパス 記録サークルによる講演記録
京大モンキーキャンパスの受講生が、自主的に記録サークルを立ち上げました!
受講生しか聞くことができない講演の様子を、サークルメンバーの視点でレポートします。
 
 8/7(日) 「分布域東限のチンパンジー」
  伊谷原一(公益財団法人日本モンキーセンター動物園長・京都大学野生動物研究センター教授)
《講演抜粋》 1994年からチンパンジーの分布域東限を求めてタンザニア全土を探索した伊谷原一氏は、広大な無人地帯のウガラ盆地にたどりつく。そして、その東側にはアフリカ全土でもチンパンジーがおらず、生息域の東限であることを確認する。そこは、熱帯雨林でもなくサバンナでもないミオンボ林の乾燥帯。約500~700万年前、そうした場所でヒトと類人猿の共通祖先が分岐したと推測する。だが、20年以上にわたる研究は結果的に野生動物を追い詰めた。最後の野生のフィールドをどう維持するのか、大きな課題に直面している。
 伊谷原一先生の講演は、「話のネタが尽きてきました」と笑いを誘いながらも相変わらずパワフル、豪快で、今回も随所に武勇伝を散りばめながら多くの聴講生を魅了しました。
  で、例によってお許しを得て講演を録音し、あらためて聞きなおしてみると、はやり研究者の情熱がフツフツと伝わってきます。 「あまり手を広げすぎるとシンドくなる」といいますが、講演はチンパンジーやボノボ、ゴリラにいたるまで、非常に広範多岐にわたるものでした。
 「分布東限のチンパンジー」というテーマは、人類発祥の地とされるアフリカ東部とチンパンジーの東限の生息域を重ね合わせながら、ヒトと類人猿の共通祖先がどのように分岐していったかを、豊富な現地写真や貴重な動画とともに具体例を次々に列挙して、ある種のイメージを与える興味尽きないものでした。

 実は先生は昨年4月、このホームページの園長日誌でも東限のチンパンジーについて触れています。それによると、タンザニア西部のウガラ盆地で、小川秀司・中京大学教授と調査を始めたのは1994年とのことです。
 講演では「とにかく分からないからタンザニアを走り回った。東西南北、熱帯低地から山岳地帯まで、道なき道のいたる所を走り回って、それぞれの植生と動物を調べた」といいます。
  環境は過酷です。百円ライターで「カチッ」とやれば瞬く間に草原が燃え広がる乾期や、日中は肌を刺すような陽光でも夜には4度にまで下がる悪条件下で、テントや崖下の岩場に寝泊まりしながら、キャッサバの粉と現地で獲れる干しイワシという乏しい食料で、時には半年以上に及ぶ調査が続きます。
  タンザニアは日本の国土の2.5倍もの広さです。この中で、アフリカにおけるチンパンジー分布域の東限が、最終的にタンガニーカ湖に注ぎ込む「ウガラ川左岸のちょっと西に入ったところ」という、「ちょっととんでもないこと」を突き止めます。そこからミオンボ林が途切れた東側には、アフリカ全土でもチンパンジーはいないというのです。
 さらに、2800平方kmのウガラ盆地という広大な無人地帯に、「推測の域を出ない」としながらも30~50頭弱のチンパンジー4集団がいて、一つの集団の遊動域が400~500平方kmであるとお話されました。




 さて、数字を並べられただけではこちらもピンと来ません。チンパンジーの生息域東限とされるウガラ盆地を日本に当てはめると、東京都の面積の1.3倍であることがわかります。さらに、1集団の遊動域という500平方kmの広さは、犬山、小牧市に扶桑、大口、豊山町と、さらに名古屋市全域を足してもまだ余ります。
 つまり、何年もかけてタンザニア中を走り回り、やっと東京都の1.3倍のウガラ盆地にたどり着きます。そして、わずかな現地スタッフとともに、どこにいるかもわからない30~50頭弱のチンパンジーを探し求めて、犬山から名古屋市全域までを歩き回って探すというのです。

 先生たちはフンや足跡を探し、草の倒れた方向に足を進め、鳴き声に耳をすませます。そうして木々を見上げてはベッドを探します。運良く出会えば、どこまでも追跡して個体識別し、ようやく観察が始まるというわけです。 こんな途方もない調査がなぜできるのでしょうか?それを先生は、次のように述べています。
  「ヒトと類人猿の共通祖先が住んでいたであろう同じ植生のところへ行って、チンパンジーがどう生息しているかを把握したい」というのです。そうしたことを通して「そもそもおのれ、ヒトを含めて霊長類とは何なのか、ヒトのヒトたる所以はどこにあるのかを追究したい」というのです。
  そして、チンパンジーの東限を探るうち、いまから500~700万年前に「おそらく、このあたりで何かが起こった。何かはわからない。そこでヒトと類人猿の系統が分かれた。ヒトはどんどん東へ生き物を求めて移動した。類人猿の祖先たちは、何かがあって森の中へ避難したんじゃないか」と、大胆な推論を展開します。

 しかし、そうした20年以上の研究の積み重ねが、結果的に野生動物を追い詰めることにつながってしまった皮肉な結果についても触れられました。広大な無人地帯だった現地では、先生たちが拓いた道をたどり、いまでは密猟の横行や森林伐採どころか、アスファルトの道まで引かれ、環境が激変しているというのです。
  動物は、長い時間をかけて環境に適応して進化してきました。しかし、文明を発見した人間は自分の都合のいいように自然を改変します。タンザニアの最後の野生が残ったフィールドを、先生は「これからどう維持していくのか思案中」といいます。 「いま、世界中で人間の手によって環境が変えられていることをお伝えしたい」。そういって多岐にわたった講演を結ばれました。

文 : 京大モンキーキャンパス受講生 柴田永治

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