第2回のモンキーキャンパスの講師は、モンキーから最も遠いところにいるとばかり思っていた宇宙飛行士の土井隆雄先生です。しかも、土井先生がおっしゃるには、人類が国際宇宙ステーション(ISS)を使って宇宙空間の利用を始めたのは、
500万年前に人類の遠い祖先がサバンナに降りて進化が始まったことに匹敵するほどの変化なのだそうです。
サルを知ることはヒトを知ること・・・。
そういえば、ガガーリンの宇宙飛行より一足先に宇宙に飛び立ったのはサルだった(犬だっけ?)。
なにやら、モンキーセンターの合言葉を地で行く壮大なお話になったのでした。 先生が用意されたパワポ資料はカラー刷り22枚。1985年に始まった先生を含む3人の宇宙飛行士による日本の有人宇宙活動と、 米国NASAを中心とした国際宇宙開発の歴史やその意義、ISSにある日本の実験棟「きぼう」での宇宙実験や、 先生が京都大学で現在行おうとしている有人宇宙学などが、実に簡潔に、整然と、わかりやすく、きっちりまとめられています。 さずが、ミッション・スペシャリスト!!そして、「宇宙は快適だ」と明快におっしゃいます。 でも、わたしのような小心者は、真っ黒で真空の宇宙空間なんて、考えるだけで息が詰まりそうで、そら恐ろしい。 それに、宇宙で長期間滞在していると、何をするにも自分の力の10%ほどしか使わないために、 地上にいるより骨のカルシウムが10倍も早く尿に溶け出し、骨粗しょう症のように骨がスカスカになってしまうというのです。 それで、ISS内では午前、午後の1時間、運動をしているそうです。でも、それはどんなトレーニングなのでしょう。 |
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2008年にエンデバー号で2度目の飛行をした際、先生は宇宙空間で制御を失った1.5トンの衛星を、
船外活動中の同僚とともに素手で軽々とキャッチした映像を紹介されました。 これでは、オリンピック記録を上回るバーベルを船内に持ち込んだとしても、トレーニングには役に立ちそうもありません。 ジョギングも宙に浮いた状態ではあまり効果的とはいえなさそうです。チラリと映った様子では、 ペダルをこいでいる映像がありました。 やはり、ギアを重くしてペダルをこぐとか、エキスパンダーとかいったものを使ったトレーニングなのでしょうか? でも、そればっかり毎日2時間もやっていると、飽きてしまわないのでしょうか。 あまりに合理的、合目的的につくられた空間で、そもそも不合理にできている人間は息苦しさを感じたりはしないのでしょうか? ちょうど1時間30分の講義の後、会場からは興味津々で質問の手が次々にあがります。 グーグルが民間から募る優勝賞金2000万ドルという月面探査の国際賞金レースで、 最終選考に進んだ日本人チームへの感想を問う質問から、宇宙空間に微生物が存在するのかといった質問、 さらには文化的背景が違うクルー同士が、狭い空間に長期間いて、はたして本当に理解しあえるのか????といった質問まで。 聴講生のみなさんの意気込みについ聞きそびれてしまったのですが、講義の前日、ガーナ、モンゴル、バングラデシュが、 それぞれの国で初となる超小型の人工衛星をJAXAなどの協力で日本の実験棟「きぼう」から放出した、と新聞にありました。 先生が京都大学に行かれる直前に在籍したウイーンの国連宇宙部の目的の一つに、「宇宙科学技術の恩恵を世界に展開する」とありますから、そちらの方面にも力を注がれていたのだと思います。でも、講義録のメモを読み返し、先生が講義を通じて強調されたかったのは、「有人宇宙学の創設」だったのだと、あらためて思わずにはいられませんでした。 TV映画「宇宙家族ロビンソン」の熱心なファンだったという先生は、将来、人類が宇宙船を造って乗り込めるとしても、多くて100~150人とおっしゃいます。そして、有人宇宙学の目的は、「宇宙における持続可能な社会基盤の構築」だといいます。 宇宙開発で重要なのは最先端の科学技術ばかりではありません。重力圏から離れた宇宙が人間に及ぼす身体現象から精神現象、はては宇宙農業から宇宙気象まで、宇宙空間でのありとあらゆる問題を根本的に再構築していく学問のようです。 ちょっと考えただけでは気の遠くなるような話なのですが、先生はわかりやすい例として、宇宙で木を育てる研究が、実はすでに始っているとおっしゃいます。木々は宇宙空間でただ一つつくり出すことができる資源。光合成によって酸素もつくってくれます。そして、実際に宇宙で森をつくる研究を始めようとしているともお話ししてくださいました。 う~ん、分からないところはいっぱいあるのですが、なにか、発想がすごい!!しかも、単にSF映画の話ではなくて、すでに研究を始めているというのですから・・・ そういえば、昨年の第一回講義で、リュウキュウアユと本土アユとの種分化をテーマにお話された琉球大学の西田睦先生を思い出しました。先生は「ヒトの進化は止まったのでしょうか?」という受講生の質問に、「この地球上ではホモ・サピエンスが分化していくことは考えにくい」と答えたうえで、「将来、火星にも、あるポピュレーション(個体群)が行くかもしれないし・・・」と付け加えたのでした。 西田先生は本土のアユが地理的分断によって遺伝子に少しずつ違いがあることを指摘したうえで、この地理的分断を将来、行くことになるとも限らない火星にまで広げてお話されたのでした。 となると、土井先生の「宇宙における持続可能な社会基盤の構築」は、人類の種分化をも視野に入れたまったく新しい学問分野ということになりそうなのですが、さて、その意味するところは2時間という限られた時間のなかでは、とても追いつける筋合いのものではないということで、納得せざるを得ないのでした。 ただ、先生は講義のなかで、2024年まで運用が延長された国際宇宙ステーションについて、その後の日本の展望の不在ぶりを嘆いています。アメリカと欧州は2025年以降も火星への有人探査を目指し、中国も月面探査を目指します。ロシアは宇宙ステーションをさらに大型化する計画を持っているのに対し、日本はその先の計画をつくることすらできないというのです。 それで、先生は京大の宇宙総合学研究ユニットに応募され、有人宇宙学というまったく新しい学問を創設することで、日本の宇宙開発をになう次世代の教育に賭けているということなのでしょう。先生は講義の最後、「宇宙をめざせ」という言葉で締めくくりました。 さて、国際宇宙ステーションは、縦100メートル、横70メートルで、ちょうどサッカー場ほどの大きさなのだそうです。 最初はとてもそら恐ろしく思えた宇宙だったのですが、サッカー少年だったわたしとしては、もし、船外に出てサッカーができるのなら、「これはひょっとして、宇宙空間も案外、快適なのかもしれない」などと思えてくるのでした。 文 : 京大モンキーキャンパス受講生 柴田永治
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※日本の動物園等で飼育されている霊長類の種数は102種類です。(2015年3月31日時点、GAIN調べ。種間雑種その他の分類不明なものは除く。) |