■京大モンキーキャンパス 記録サークルによる講演記録
京大モンキーキャンパスの受講生が、自主的に記録サークルを立ち上げました!
受講生しか聞くことができない講演の様子を、サークルメンバーの視点でレポートします。
 
 9/9(日) 「モンゴル遊牧民における家畜の子育て」
  小長谷 有紀 (国立民族学博物館 教授)
前回、前々回とDNAや生化学の知識に乏しく、お見苦しいところをお見せしてしまった当コラム。 今回のテーマは「家畜の起源」です。これまでも、リュウキュウアユや馬を取り上げて来たモンキー講座ですから、 家畜がテーマでも違和感はありません。 でも、場所は熱帯雨林やジャングルといった慣れ親しんだ環境から一転、冬にはマイナス40度にもなるという乾燥地帯のモンゴル平原です。 さて、モンゴルの草原に吹く風が、連敗続きのコラムの流れを変えてくれるのでしょうか、祈るように書き進めてみます。

 で、小長谷先生の講義はいきなりモンゴルの「去勢文化の特徴」から始まります。 男性としてはいささか身につまされる話です。ここは怖じけず、じっくり耳を傾けてみます。
 モンゴルの遊牧の特徴は、この去勢されたオスの家畜の多さに特徴があるといいます。 一般的に世界の牧畜の雌雄比率はメスが9割以上、オスは10%以下なのだそうです。種オスを除くとオスはまず“役立たず”の部類。 間引かれるのがもっぱらで、だから、ヨーロッパなどで子羊や子ウシを使った肉料理といえばすべてオスなのだそうです。 ところがモンゴルではこの割合が常に半々かオスの方が多い傾向にあるといいます。それは去勢文化が発達した点にあるというのです。

 その理由として先生は、あまりに平原が広大で「売る相手がいず」、「オスを殺さなくていい」点を挙げます。 一方でオスが多いと、繁殖期にはメスを巡って争いが起こるばかりか、群れが分裂してしまいます。 そこで発達したのが「去勢」なのだというのです。
 考えてみれば馬は産業革命までは地上最速の乗り物、牛は最大の運搬手段でした。 あのチンギス・ハンのモンゴル帝国が強大さを極めた理由は、武器としてこれら家畜動物を存分に使いこなす技術があったからだといいます。 う~ん、なかなか味わい深い。

 さて、そこから話は搾乳に移ります。そもそも搾乳はどのように始まったか。 その点について先生は「いつ、どこで始まったかを考えるのは考古学的アプローチ。 どのように始まったかを考えるのが民族学・文化人類学的アプローチ」とおっしゃいます。
 ついでなので書いてしまいますが、農耕が始まった1万年前とほぼ同時期に家畜も広まったといいます。 何となく時代がもっと下ってからのことと思っていたのですが、先生の答えは明快です。 農耕が始まれば、家畜の餌も同時にできるからというのがその大きな理由なのだそうです。
 なるほど、昔のおばあちゃんは物を大切にしました。捨てるということをまずしません。 ずっと昔の遠いおばあちゃん以来、連綿とそうした文化が続いてきたということなのでしょう。 ここ50、60年間の世の中の変化のスピードが、余りに急ぎ過ぎているのです。

 さて、搾乳なのでした。ここで先生は人と動物との関係がいかに多様に結ばれてきたかを概観します。 1年間の「牧畜暦」を見ても、春の出産期から去勢や毛の刈り取りを経て、秋の始まりまでの搾乳期、 そして初冬にかけての交尾期を経て、冬を乗り切るための食料とする屠畜期まで、暮らしを支える大切な動物として家畜を飼育し、 その時々応じて実に様々なしきたりを行います。
 例えば、何気ない一本の棒であったとしても家畜と人間の境界を示す結界として大切に使われる。 その文化的な意味は2時間の講義で十分理解することはできなかったものの、わたしたちの生活と比べても身近に感じられるものでした。 そして、生まれた子供をおとりとしてメスの乳を拝借する搾乳が始まりました。

 さらに搾乳と去勢という画期的な技術の発見によって、乾燥地帯への生活領域の展開という、 農業革命や産業革命に匹敵する文明史上の大展開が、博物館初代館長の梅棹忠夫先生が唱えた「牧畜革命」だったとおっしゃいます。

 では、この牧畜革命は何をもたらしたか?ということですが、あまりにテーマが遠大すぎて手に余ります。 ただ一つ、そのヒントらしいことを質問タイムでお答えいただきました。 トルコ民族はもともとモンゴル付近にいたそうです。それが時を経て現在のトルコ半島にまで移動したというのです。 先生の言葉を借りれば、「さえぎるもののない草原でツツーと広がって行く」ということのようなのです。

 モンゴルの大平原は島国日本に住むわたし達の感覚では捉えきれないものがあるのですね。 小長谷先生は39年前の学生時代、そうした環境をはねのけて専門外のモンゴル語を勉強して留学を果たします。 そしてその最初の調査で厳冬期のモンゴルに入り、研究者として初めて出産期を迎えた牧畜の世界を体験します。 裸馬も乗りこなしたというのですから、お話には出なかった武勇伝は数知れないのだと思います。

 質問タイムでは、現在の国立民族学博物館の、特にモンゴルやソ連など旧社会主義諸国の展示内容が歴史を踏まえておらず、 説明方法も余りにぶっきらぼうで不親切なのだという内輪話もありました。 「見学して気づくことがあれば電話なりで意見を直接伝えてほしい」ということでした。
 一度ぜひ見て見たいものだと思っていたら、最後は魅力的なお誘いです。 目的さえはっきりしたグループであれば、世界各地の膨大な民族学資料を収集している収蔵庫まで、確か、先生の案内で見学できるとのことです。 モンキー講座としては飛び上がりそうなほど耳寄りな話。先生が毎日通うたびに壮大な気持ちになるという「太陽の塔」とともに、 一度は訪ねておきたいものです。



文・写真 : 京大モンキーキャンパス受講生 柴田永治

 
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