特別展「海とサルの交わるところ」
第3章 海を渡った霊長類たち
もっとも古い時代の霊長類の化石はおもに北半球から発見されています。
北半球から分布を広げた霊長類は、中南米やマダガスカルのように大きな海で隔てられた地に渡りました。
また、東南アジアではマレー半島だけでなく、多くの島にも霊長類がくらします。
彼らのたどった歴史を見ていきます。
霊長類のはるかな旅路
霊長目に分類される動物が地球上に登場したのは、化石記録からは暁新世後期とされています。諸説ありますが現在見つかっているもっとも古い霊長類の化石とされるアルティアトラシウスは北アフリカ・モロッコのおよそ5700万年前の地層から見つかっています。その後始新世(5600万年前~)に入ると、現生のグループにつながるアダピス類とオモミス類、それぞれの化石が北米とユーラシア、あるいはアフリカの北部で見つかっています。このことから北半球が霊長類の登場と初期進化の舞台だったと考えられます。
現在、霊長類はアフリカや南米、アジアの熱帯~温帯域へと分布を広げています。海で隔てられた地域にどのように進出していったのでしょうか。霊長類の歴史をたどります。
海を渡りマダガスカルへ
霊長類が出現した当時、マダガスカルは島としてすでに独立していました。現在マダガスカルにくらすキツネザルのなかまの祖先はアフリカから海を渡ったとしか考えられません。ではどのように渡ったのでしょうか?
一つの説は流木のようなものに乗って流れ着いた、というものです(ラフティング)。アフリカからマダガスカルまで流木にのっていた間には、現生のフトオコビトキツネザルなどに見られるような「冬眠」をしていたのではないかという説もだされています。一方、現生種で冬眠する種は限られることから、冬眠をしたのではなく、アフリカとマダガスカルの間にかつてあった、小さな島伝いに、短距離の分散を繰り返してマダガスカルに到達したのではないかという説もあります。
他に競合する種がいないマダガスカルに到達したことでキツネザルのなかまは多様化を遂げ、現在は100種近くを数えるまでになっています。
海を渡り南米へ
南米には現在、マーモセットからクモザルまで多様な霊長類がくらしていますが、どこから来たのでしょうか。
およそ3200万年前から2900万年前、漸新世の南米からは、もっとも初期の霊長類としてアシャニンカケブス、ペルーピテクス、ウカヤリピテクスといった化石が知られています。じつはこのうちペルーピテクスとウカヤリピテクスはアフリカの種との類縁が、アシャニンカケブスはなんと南アジアの種との類縁を指摘する研究が報告されました。これが正しければ、南米の霊長類はアフリカから大西洋を渡って、さらに一部は南アジアからアフリカを経由してやってきたと考えられるのです。南米とアフリカの間は途方もない距離ですが、この海を超えたイベントが複数回起こった可能性がでてきました。アフリカで大洪水がおきて一気に流されたのでしょうか。大昔の霊長類の旅はまだまだ謎だらけです。
氷期に現れた陸地
260万年前、第四紀に入ると地球は寒冷な氷期と温暖な間氷期を繰り返すようになりました(現在は間氷期)。氷期になると高緯度地域や高標高地域には氷床や氷河が発達します。これによって水が氷として陸地にとどまり、海の水は減っていきました。最後の氷期、およそ12000年前には現在よりも海水面が120~130mほども下がったといわれています。つまり、現在水深が120mよりも浅いところは一次的に海の上に出た陸地になっていた、ということです。
こうして出現した陸地によって大陸と島、あるいは島と島が接続しました。「海を渡る」というと少しイメージが違うかもしれませんが、こうした陸地も霊長類が分布を広げていくために重要なものでした。
アジアの島々へ
現在、東南アジアの多くの島々に霊長類が分布しています。そのほとんどはラフティングのように海を渡って入ったわけではありません。氷期には東南アジアに広大な「スンダランド」が形成されました。現在は島にくらす霊長類も多くがこの一時的な陸地を通って分布を広げたものと考えられます。
ただしスンダランドとつながらなかった島もあります。それは現在マカク類(ニホンザルのなかま)7種が分布するスラウェシ島およびその周辺の島です。氷期でもスラウェシ島とスンダランドの間はつながらなかったと推定されています。スラウェシ島のマカクの祖先はこの海峡を越えて分布を広げ、多様化したのです。
東アジアでも、日本列島や台湾は氷期に大陸と陸続きになりました。この時に祖先種は分布を広げたと考えられます。続く間氷期にふたたび島となったのちに、各地で独自の進化を遂げ、種が分かれたと考えられます。












